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京都地方裁判所 平成5年(ワ)130号 判決 1994年7月13日

京都市伏見区竹田七瀬川町七番地

原告

初井良太郎

京都市伏見区竹田七瀬川町七番地

原告

関西精機株式会社

右代表者代表取締役

初井良太郎

右両名訴訟代理人弁護士

三木善續

伊原友己

京都市中京区西ノ京桑原町一番地

被告

株式会社島津製作所

右代表者代表取締役

藤原菊男

右訴訟代理人弁護士

内田修

内田敏彦

右補佐人弁理士

武石靖彦

西岡義明

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録(一)記載の自動身長体重計を製造・販売及び販売のための展示をしてはならない。

2  被告は、その本店、営業所及び工場において占有する別紙物件目録(一)記載の物件の完成品及びその半製品(別紙物件目録(一)記載の物件の形状を有しているが、まだ製品として完成していないもの。)を廃棄せよ。

3  被告は、原告初井良太郎(以下「原告初井」という。)に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成五年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告関西精機株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成五年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告初井は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有する。

<1> 出願日 昭和五九年八月八日

<2> 出願番号 意願昭五九-三三七六六

<3> 登録日 昭和六二年一二月九日

<4> 登緑番号 第七二九七五〇号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(二)に示すとおりの身長計

2  本件意匠には、次の(一)ないし(九)の類似意匠(以下、それぞれ「類似意匠(1)」などという。)が付帯している。

(一) 類似意匠(1)

<1> 出願日 昭和五九年八月八日

<2> 出願番号 意願昭五九-三三七六七

<3> 登録日 昭和六三年六月二四日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第一号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の1に示すとおりの身長計

(二) 類似意匠(2)

<1> 出願日 昭和五九年一二月二九日

<2> 出願番号 意願昭五九-五四〇九七

<3> 登録日 昭和六三年六月二四日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第二号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の2に示すとおりの身長計

(三) 類似意匠(3)

<1> 出願日 昭和六〇年一二月二七日

<2> 出願番号 意願昭六〇-五四八〇四

<3> 登録日 昭和六三年一一月二四日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第三号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の3に示すとおりの身長計

(四) 類似意匠(4)

<1> 出願日 昭和六一年三月二〇日

<2> 出願番号 意願昭六一-一〇一六八

<3> 登録日 平成元年六月二九日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第四号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の4に示すとおりの身長計

(五) 類似意匠(5)

<1> 出願日 昭和六三年九月九日

<2> 出願番号 意願昭六三-三五八九一

<3> 登録日 平成二年一一月一六日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第五号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の5に示すとおりの身長計

(六) 類似意匠(6)

<1> 出願日 昭和六三年九月九日

<2> 出願番号 意願昭六三-三五八九二

<3> 登録日 平成二年一一月一六日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第六号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の6に示すとおりの身長計

(七) 類似意匠(7)

<1> 出願日 昭和六三年九月九日

<2> 出願番号 意願昭六三-三五八九三

<3> 登録日 平成二年一一月一六日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第七号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の7に示すとおりの身長計

(八) 類似意匠(8)

<1> 出願日 昭和六三年九月九日

<2> 出願番号 意願昭六〇-三五八九四

<3> 登録日 平成二年一一月一六日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第八号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の8に示すとおりの身長計

(九) 類似意匠(9)

<1> 出願日 昭和六三年九月九日

<2> 出願番号 意願昭六三-三五八九五

<3> 登録日 平成二年一一月一六日

<4> 登録番号 第七二九七五〇号の類似第九号

<5> 意匠に係る物品 身長計

<6> 登録意匠 別紙物件目録(三)の9に示すとおりの身長計

3  本件意匠の構成は次のとおりである。

(一) 基本的構成

(1) 身長と体重を同時に測定する電子制御式の自動身長体重測定装置にあって、特に互換性のある制御・表示ユニットを除いた機体自体の意匠に係るものである。

(2) 基準足踏基台(以下「基台」という。)の上面中央部後方に角柱状の身長測定用支柱(以下「支柱」という。)が垂設されている。

(3) 支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、水平板底面を基台上面と平行になるように保持され支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されている。

(二) 具体的構成

(1) 基台上面には、後方がL字型に起曲された足踏板が敷設されている。

(2) 両側面後部に車輪が各一個付設されている。

(3) 支柱前面下部は、支柱前屈収納時のカーソル収納用に中空状を呈し、該中空部支柱後面は、カーソル収納スペースを確保するため、側面が台形状を呈する角柱状の出っ張りがある。

(4) 支柱背面には、支柱高の約二分の一の高さに、上面が支柱接着部から先端部にかけて片流れ状に若干の勾配を描く小なる箱体が付設されている。

(5) 支柱側面には支柱高の約二分の一の箇所に、左右対称にコの字型に成型された棒状の取っ手一対が付設されている。

(6) 支柱前面の上半部中央には、カーソル移動用細溝がある。

(7) 支柱は、支柱高に対して約二分の一の箇所で手前に二折できる。

(8) カーソルは、板状の直方体で底面は基台と水平に保たれている。

(9) カーソル上面は、上面両側辺中央部付近より手前先端部にかけて片流れ状に若干傾斜し、手前先端部に行くほど、カーソルの厚みが薄くなっている。

(10) 支柱前面にカーソル背面が対面支持され、支柱上半部において支柱の軸線方向に移動可能に形成されている。

(11) カーソル側面と支柱上部がケーブルで連結されている。

4  ところで、意匠権の範囲を画定するにあたっては、その類似範囲の外延を画定しなければならないが、本意匠に存しながら類似意匠には存しない意匠的特徴及び類似意匠には存しながら本意匠には存しない意匠的特徴は、ともに意匠権の類似範囲に包含されるものと解するべきである。

5  この立場から、本件における各類似意匠の特徴的部分、すなわち、本件意匠権の類似範囲の外延を画する意匠的特徴は、次のとおりである。

(一) 基台の上面中央部後方に角柱状の支柱が垂設されており、右支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、カーソル水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されている身長計であって、次の特徴を備えるもの。

(二) 基台部の形状

(1)ア 基台は直方体であるか(類似意匠(5)ないし(9))

あるいは、

イ 基台の上面上角部が面取りされている形状の直方体であること(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

(2)ア 基台上面には、後方がL字型に起曲された足踏台が載設されているか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ 基台上面の支柱手前部に仕切板が垂設されていること(類似意匠(5)ないし(9))

(3)ア 基台の両側面後方部に車輪が各一個付設されているか(本意匠、類似意匠(2)ないし(6)、(9))

あるいは、

イ 車輪が全く付設されていないこと(類似意匠(7)(8))

(4)ア 基台上面後方部に、小円形の水平計表示窓が一つ設けられているか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ 右水平計表示窓が、基台上面には設けられていないこと(類似意匠(5)ないし(9))

(5)ア 基台底面四隅に、小径の接地用の円形突起が突設されているか(本意匠、類似意匠(1)、(2)、(5)ないし(9))

あるいは、

イ 基台底面前方二隅に、小径の接地用の円形突起が突設されていること(類似意匠(3)(4))

(三) 支柱部の形状

(1)ア 支柱形状は四角柱であるか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ 支柱前面部中央が若干中折れしている五角柱であること(類似意匠(5)ないし(9))

(2)ア 支柱幅は、下端から上端まで一様であるか(本意匠、類似意匠(1)、(2)、(5)ないし(9))

あるいは、

イ 支柱の中程の部分で、支柱幅が若干狭くなっており二段階形状を呈していること(類似意匠(3)及び(4))

(3)ア 支柱前面下部には、中空状の開口部があり、支柱後面下部には、側面が台形状の出っ張りがあるか(本意匠、類似意匠(1)、(4))

あるいは、

イ 右開口部も出っ張りも、いずれも存しないこと(類似意匠(2)、(3)、(5)ないし(9))

(4)ア 支柱背面あるいは側面には、支柱高の二分の一の部分もしくは支柱上端部から約三分の二の部分に、小型の箱体が一個突設されているか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ 支柱のいずれの面の高さにも、右小型の箱体がまったく突設されていないこと(類似意匠(5)ないし(9))

(5)ア 支柱側面の支柱高の中程の箇所に、左右対称にコの字型に成型された棒状の取っ手一対が付設されているか(本意匠、類似意匠(2)ないし(6))

あるいは、

イ 取っ手が、まったく付設されていないこと(類似意匠(1)、(7)ないし(9))

(6) 支柱の前面、側面、背面のいずれかの面の中央部に、支柱上半部ないしは支柱上端部の若干下辺りから支柱高の約三分の二の部分にかけて、カーソル移動用の細溝が設けられていること(本意匠、類似意匠(1)ないし(9))

(7)ア 支柱は、その中程の高さの部分において、手前あるいは側方に二折に倒折できるか(本意匠、類似意匠(1)、(3)、(4))

あるいは、

イ 支柱の途中部分において支柱下部と上半部を二分して、分離した上半部前面を支柱下半部前面に接着するように基台に倒立載置できるか(類似意匠(2))

あるいは、

ウ 支柱は、容易に倒折あるいは分離できないこと(類似意匠(5)ないし(9))

(8) 支柱上端部には、支柱と略同幅の支柱キャップが冠載・載置されていること(本意匠、類似意匠(1)ないし(9))

(四) カーソル部の形状

(1)ア カーソル先端形状は、板状の直方体でカーソル前面上側角部が、ゆるやかな傾斜角を呈するように面取りされている(カーソル上面両側辺中程付近よりカーソル先端部にかけて片流れ状に若干傾斜し、手前先端部に行くほど、カーソルの厚みが薄くなっている)形状を呈しているか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ カーソル先端形状は、板状の直方体で先端部上面視が半円弧状を呈していること(類似意匠(5)ないし(9))

(2)ア カーソルと支柱とは、支柱前面にカーソル背面が対面支持される形状を呈するか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ カーソル側面視が、角尺状(<省略>)を呈し、カーソル後半部に支柱幅より若干大きい四角状の孔が貫設されており、該孔に支柱が遊貫・貫入されている形状を呈するか(類似意匠(5)、(7))

あるいは、

ウ カーソル側面視が、角尺状(<省略>)を呈し、カーソル後半部が支柱幅より若干大きい幅で開裂しており、該開裂内側部で支柱両側面を挟持する形状を呈すること(類似意匠(6)、(8)、(9))

(3) カーソルは、支柱の略上半部あるいは支柱上端部より若干下部から支柱高の約三分の二の高さにわたって、支柱の軸線方向に移動可能に支持されていること(本意匠、類似意匠(1)ないし(9))

(4)ア カーソル後方部と支柱上端部とが、一本のケーブルで連結されているか(本意匠、類似意匠(1)ないし(4))

あるいは、

イ ケーブルは、まったく存しないこと(類似意匠(5)ないし(9))

(五) 右各意匠的特徴の組み合わせであること。

6  被告は、別紙物件目録(一)記載の物件(以下「イ号物件」という。)を、その本店、営業所、工場等において製造、販売並びに販売のために展示している。

7  イ号意匠の構成は次のとおりである。

(一) 身長と体重を同時に測定する電子制御式の自動身長体重測定装置にあって、特に互換性のある制御・表示ユニットを除いた機体自体の意匠に係るものである。

(二) 基準足踏基台の上面中央部後方に角柱状の身長測定用支柱が垂設されている。

(三) 支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されている。

(四) 基台上面には、後方がL字型に起曲された足踏板が載設されている。

(五) 支柱背面上半部中央には、軸線方向にカーソル移動用細溝がある。

(六) カーソルは、側面視が、角尺状(<省略>)を呈し、水平板底面は基台上面と水平に保たれている。

(七) カーソル水平板上面は、上面両側辺中央部より若干先端寄りの箇所から先端部にかけて片流れ状に若干傾斜し、手前先端部に行くほどカーソルの厚みが薄くなっている。

(八) カーソル後半部には、支柱が遊貫・貫入される孔が貫設されており、支柱上半部において支柱の軸線方向に移動可能に支持されている。

(九) カーソルと支柱上部とは、ケーブルで連結されている。

8  イ号意匠は、5記載の意匠的特徴のうち、次の特徴を備えている。

(一) 基台の上面中央部後方に角柱状の支柱が垂設されており、右支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、カーソル水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されている身長計であって、次の特徴を備えるもの。(右5(一))

(二)(1) 基台の上面上角部が面取りされている形状の直方体である(同(二)(1)イ)

(2) 基台上面には、後方がL字型に起曲された足踏台が載設されている(同(2)ア)

(3) 車輪が全く付設されていない(同(3)イ)

(4) 基台上面後方部に、小円形の水平計表示窓が一つ設けられている(同(4)ア)

(5) 基台底面四隅に、小径の接地用の円形突起が突設されている(同(5)ア)

(三)(1) 支柱形状は四角柱である(同(三)(1)ア)

(2) 支柱幅は、下端から上端まで一様である(同(2)ア)

(3) 支柱前面下部には、開口部も出っ張りも、いずれも存しない(同(3)イ)

(4) 支柱のいずれの面の高さにも、右小型の箱体がまったく突設されていない(同(4)イ)

(5) 取っ手が、まったく付設されていない(同(5)イ)

(6) 支柱の前面、側面、背面のいずれか面の中央部に、支柱上半部ないしは支柱上端部の若干下辺りから支柱高の約三分の二の部分にかけて、カーソル移動用の細溝が設けられている(同(6))

(7) 支柱は、容易に倒折あるいは分離できない(同(7)ウ)

(8) 支柱上端部には、支柱と略同幅の支柱キャップが冠載・載置されている(同(8))

(四)(1) カーソル先端形状は、板状の直方体でカーソル前面上側角部が、ゆるやかな傾斜角を呈するように面取りされている(カーソル上面両側辺中程付近よりカーソル先端部にかけて片流れ状に若干傾斜し、手前先端部に行くほど、カーソルの厚みが薄くなっている)形状を呈している(同(四)(1)ア)

(2) カーソル側面視が、角尺状(<省略>)を呈し、カーソル後半部に支柱幅より若干大きい四角状の孔が貫設されており、該孔に支柱が遊貫・貫入されている形状を呈する(同(2)イ)

(3) カーソルは、支柱の略上半部あるいは支柱上端部より若干下部から支柱高の約三分の二の高さにわたって、支柱の軸線方向に移動可能に支持されている(同(3))

(4) カーソル後方部と支柱上端部とが、一本のケーブルで連結されている(同(4)ア)

(五) 右各意匠的特徴の組み合わせである(同(五))

9(一)  原告初井は、原告会社に対し、独占的通常実施権を付与しているところ、被告の本件意匠権侵害行為により、実施料相当額の損害を被った。

(二)  被告は、遅くとも昭和六三年頃よりイ号物件を販売し、月間で最低三〇〇万円の売上げがあり、その合計は、これまでに、二億円を下ることはない。

(三)  実施料相当額は、販売価格の五%が相当である。

(四)  したがって、原告初井の右実施料相当額は、一〇〇〇万円であるところ、この内、金五〇〇万円の支払いを求める。

10(一)  原告会社は、本件意匠権について、独占的通常実施権を有している。

(二)  被告のイ号製品の売上額は、右のとおり二億円を下らず、被告の純利益率は二〇%であるから、被告は少なくとも四〇〇〇万円の純利益額をあげている。

(三)  したがって、右純利益額が原告会社の損害と推定されるところ、原告会社は、この内金として一〇〇〇万円の支払いを求める。

11  よって、原告初井は、被告に対し、意匠権に基づいて被告のイ号物件の製造・販売及び販売のための展示行為の差止並びに被告所有にかかるイ号物件の完成品・半製品の廃棄を求めるとともに、意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の内金として五〇〇万円及び本訴状送達の日の翌日である平成五年一月三〇日から右支払い済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告会社は、被告に対し、意匠権の独占的通常実施権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の内金として金一〇〇〇万円及び本訴状送達の日の翌日から右支払い済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2(一)  同4、5は争う。原告らは、本意匠と類似意匠との間で意匠的形状態様が相互に異なる対応部分をも、選択的表現をすることによって、これを本件意匠の要部であると主張する。しかし、このような見方に立つと、本意匠の各部形状は、その形状が類似意匠に認められなくても、すべて「要部」であるということになると同時に、類似意匠には認められるが本意匠には認められない形状的特徴も、当該意匠の要部を構成することになるから、右の如き原告らの要部に関する主張は到底意匠類否判断の役に立つものではない。本意匠にも全ての類似意匠にも共通して存在する意匠的特徴こそが意匠の要部として類似範囲の外延を画すると解すべきである。

(二)  類似意匠(1)ないし(9)は、出願日、動的意匠か否か、現物の写真による出願か否かという観点からみて、明らかに類似意匠(1)ないし(4)のグループ(以下「第一グループ」という。)と類似意匠(5)ないし(9)のグループ(以下「第二グループ」という。)とに大別される。

(1) 本件意匠及び第一グループの類似意匠は、被告によるイ号物件の販売開始(昭和六二年八月)以前に出願されている。また、いずれも意匠に係る身長計の支柱の側方に出っ張った取っ手(コの字型又は箱型)が形成されており、コの字型取っ手の直上部分又は箱型取っ手の直下部分を回動中心軸として支柱上半部を前方に倒すように回転させることにより二つ折りにできるか、又はコの字型取っ手の直上部位を境にしてこれより上方の支柱上半部をこれより下方の支柱下半部から上方に引き抜いて分離することができるように構成した身長計の意匠であり、いわゆる動的意匠である。また、本件意匠及び第一グループの類似意匠は、いずれも製品身長計の現物を写真撮影してなる図面代用写真により表示して出願されている。

(2) これに対し、第二グループの類似意匠は、いずれも被告がイ号物件の販売を開始した昭和六二年八月から約一年を経て出願されたものであり、その形態は固定的、静的な身長計の意匠である。また、第二グループの類似意匠は、いずれも写真でなくて図面のみによる表示をして出願されている。

(三)  イ号物件はその品番が「AHW-2A」となっていることからも判るように改良型であり、それより以前には品番「AHW-1A」を付した旧製品があったのであり、被告はこの旧製品の形状・仕様を独自に決定して原告会社に製造依頼し、原告会社から納入された該旧製品を被告の子会社である島津メディカル株式会社を通じて公然と販売していた。この旧製品の意匠はイ号物件の意匠とほとんど変わらないものであった。

また、被告は、昭和六二年八月にイ号物件の製造販売を開始した。イ号物件は、翌六三年二月までに所沢市市民医療センター、東京都硝子業健康保健組合及び東京専売病院に納入され、公然と使用されていた。

第二グループの類似意匠の出願は昭和六三年九月九日になされているから、被告が独自に形状・仕様を決定したイ号物件及びその旧製品の形状を原告らが知った後に出願されたことは明らかである。それ故に、これらの類似意匠、ことに類似意匠(7)の登録は、ただに本件意匠にのみ類似する意匠でないばかりでなく、意匠の創作者から正当に意匠登録を受ける権利を承継していない者の意匠登録出願に対してなされたものでもあるので、意匠法四八条一項一号・同法一〇条一項の登録無効原因のみならず、同法四八条一項三号の登録無効原因をも有し、過誤登録されているといわざるを得ない。

(四)  したがって、本件意匠の類似範囲は、過誤登録された第二グループの存在を無視して考えるべきであり、本件意匠及び第一グループに共通する意匠的構成すなわち請求原因8(一)記載の

(1) 身長計の意匠であること。

(2) 基台の上面中央部後方に角柱状の支柱が垂設されていること。

(3) 支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、カーソル水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されていること。

の三点に加え、

(4) 正面から見て支柱の右側方に出っ張った取っ手(コの字型又は箱型)が形成されていること。

(5) 支柱は、取っ手の近傍において支柱上半部と支柱下半部に分割されており、両者の境界部にすき間からなる境界線がくっきり認められること。

の構成を具備する意匠に及ぶと解すべきである。

(五)  仮に、第二グループの類似意匠の登録は無視しえないとの考え方に立ったとしても、これらの類似意匠により確認される類似範囲は、請求原因8(一)に記載されている本件意匠の基本的構成である

(1) 身長計の意匠であること。

(2) 基台の上面中央部後方に角柱状の支柱が垂設されていること。

(3) 支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、カーソル水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されていること。

の三点に加え、類似意匠(5)ないし(9)の各意匠公報に図面をもって示されている個々の具体的意匠(図面適りのもの)のみを付加した範囲であると解すべきである。

3  同6、7は認める。

4(一)  同8のうち、(一)は認める。

(二)  同(二)(1)ないし(5)、(三)(1)ないし(5)、(7)、(四)(1)、(2)、(4)は、本件意匠と類似意匠との間で意匠的形状態様が相互に異なる部分をも選択的に表現することによって本件意匠の要部であると主張しているものであるから主張自体失当である。

(三)  同(三)(6)は認める。ただし、カーソル移動用細溝が支柱正面にある場合と支柱背面にある場合とでは、支柱正面に突出しているカーソル本体との関係で細溝の向きが同側になったり反対側になったりするのであるから、形状意匠の構成要素としては全く相違する。したがって、カーソル移動用細溝は、独自の意匠的価値を発揮していないので、それが支柱のどの面にあろうと或いは又これが支柱になかろうとも、右の形状的価値の共通性を認める妨げにならないから、本件意匠の要部を構成するものではない。

(四)  同(三)(8)は認める。ただし、支柱キャップは、類似意匠(5)ないし(9)にはこれが存在しているが、本件意匠及び類似意匠(1)ないし(4)においては存否不明である。したがって、この支柱キャップは本件意匠及びすべての類似意匠に共通の意匠的構成ではないから、本件意匠の要部足りえない。

(五)  同(四)(3)は認める。

(六)  同(五)は否認する。

6  請求原因9(一)は知らない。同(二)、(三)は否認する。同(四)は争う。

7  請求原因10(一)は知らない。同(二)は否認する。同(三)は争う。

8  同11は争う。

三  抗弁(権利濫用)

1  本件意匠の要部である請求原因8(一)の構成は、いずれも身長計としての機能を奏するために当然備えられなければならない必須の構成であり、この種物品に通用的な構成・態様であって本件意匠の出願前から公知であった。すなわち、この三点の構成からなる本件意匠の要部全体を備えた先行意匠として、本件意匠の登録出願前に日本国内において頒布された刊行物(昭和五〇年一月一日発行の「計量新聞」第二面及び昭和五八年一〇月一日発行の「計量新聞」第七面)にそれぞれ記載されている身長計の意匠(別紙物件目録四及び(五))が存在している。

2  仮に請求原因8(三)(6)のカーソル用細溝の存在を本件意匠の要部であると認めたとしても、この種カーソル移動用の細溝は、本件意匠の出願前がら周知の構成(別紙物件目録(五)参照)であり、何ら考案力を要することなく着想実施できるものであるから、本件意匠は全体として観察する場合には別紙物件目録(四)の意匠により新規性を欠くことは明らかである。

3  仮に請求原因8(三)(8)の支柱キャップが本件意匠の要部であると認めたとしても、このような支柱キャップは、本件意匠の出願前から周知の構成であり(別紙物件目録(五)参照)、何ら考案力を要することなく着想実施できるものであるから、本件意匠は全体として観察する場合には別紙物件目録(四)の意匠により新規性を欠くことは明らかである。

4  したがって、本件意匠は意匠法三条一項二号の規定に違反して登録されたものとして登録無効原因を有するから、原告らの本訴請求は権利濫用であり、許されるべきではない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。

2  同2、3は否認する。本来、意匠は「有機的一体」のものであり、意匠の要部を抽出する場合でも、それを十分に含んだ上で行われなければならない。一般需要者に誤認混同を来すか否かが、意匠の類似判断の重要なファクターであり、一般需要者はあくまで意匠全体を見て当該商品を購入するか否かを判断するからである。被告は、本件意匠を個々の物理的部分に分断し、そして、これら個々の部分ごとにそれぞれ公知部分を主張しているが、これは意匠が「有機的一体」のものであるという視点をもたずに要部を抽出した結果であり採用できない。

3  同4は争う。無効原因の存在を理由とする権利濫用の主張は、権利の設定及び抹消期間である特許庁の判断に先行させて、裁判所に判断を求めるものであり、権限の分掌を規定した法の精神に反するものである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載されたところと同一であるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1、2(本件意匠及び各類似意匠の存在)、同3(本件意匠の構成)及び同7(イ号意匠の構成)は当事者間に争いがない。

二  請求原因4における意匠権の類似性判断の基準に関する原告らの主張について検討する。

1  原告らは、本意匠に存しながら、類似意匠には存しない意匠的特徴及び類似意匠に存しながら本意匠には存しない意匠的特徴は、ともに意匠権の類似範囲に包含される旨主張し、本件意匠及び各類似意匠の各部分のそれぞれの特徴を選択的に記載してこれが本件意匠権の類似範囲の外延を画する意匠的特徴であるとし、そのいずれかが類似していることをもってイ号物件と本件意匠権とが類似する根拠であると主張している。しかし、右のような原告らの主張では、意匠権の類似範囲はほとんど無限定といえるほど拡大し(原告らは、本件意匠の意匠的特徴として、全部で一四の構成部分についてそれぞれ二ないし三の選択的記載を行っているが、右のような条件に当てはまる意匠的構成の組み合わせは三万六八六四通り存在する。)、意匠権の類似範囲画定の基準として意味をなさず、極めて不当な結果となることは明らかである。類似意匠は、本意匠の類似範囲を画する際の有力な資料ではあるが、対比物品の類否はあくまでも本意匠との比較によって決すべきであり、類似意匠に更に類似するか否かは類否判定の基準とすべきではない。

2  登録意匠の要部は、当該意匠の出願前にその分野における公知の意匠が存する場合には、これを考慮に入れて当該意匠における創作性の存否・程度を把握し、更に類似意匠が付帯している場合には、本意匠と類似意匠それぞれとの類似点を参考にしつつ、本意匠の特徴を中心に定められるべきであり、類似意匠の一部が公知意匠との関係で創作の程度が相対的に低い場合には、そのことも考慮に入れ、類似の範囲も相応に限定されるものと解すべきである。

三  そこで、本件意匠と各類似意匠の類似点を分析し、公知意匠も考慮に入れつつ、本件意匠権の要部を確定することとする。

1  まず、本件意匠と各類似意匠すべてに共通する構成要件について検討する。

(一)  原告らが請求原因5において分説した本件意匠及び各類似意匠の各部の特徴のうち、原告らが本件意匠及び各類似意匠を含め共通する特徴的部分として主張しているのは以下の特徴である。

(1) 基台の上面中央部後方に角柱状の支柱が垂設されており、右支柱の前面上半部には、身長測定用カーソルが、カーソル水平板底面を基台上面と平行になるように保持され、支柱に沿って軸線方向に垂直移動可能に支持されている身長計であること

(2) 支柱の前面、側面、背面のいずれかの面の中央部に、支柱上半部ないしは支柱上端部の若干下辺りから支柱高の約三分の二の部分にかけて、カーソル移動用の細溝が設けられていること

(3) 支柱上端部には、支柱と略同幅の支柱キャップが冠載・載置されていること

(4) カーソルは、支柱の略上半部あるいは支柱上端部より若干下部から支柱高の約三分の二の高さにわたって、支柱の軸線方向に移動可能に支持されていること

(二)  右(一)(1)の特徴が、本件意匠及び各類似意匠に共通に備わる特徴であることに当事者間に争いがない。(以下これを「共通構成要件a」という。)

(三)  右(一)(2)のカーソル移動用の細溝について検討する。カーソル移動用細溝は、身長計において最も目につきやすい高さに位置し、また凹部であるため目立つものであり、身長計の意匠にとって重要な構成要素であると考えられる。しかしながら、本件意匠及び各類似意匠について右溝の位置についてみると、本件意匠、類似意匠(1)ないし(4)においては、右溝は正面に存在し、類似意匠(5)ないし(7)においては背面に存在し、類似意匠(8)(9)においては側面に存在している。特に身長計の利用者は、その正面から利用する場合が多いことを考えると、右溝が正面にあるかその他の場所にあるかにより、利用者に対して与える美感・印象は大きく異なることは明らかであり、身長計の意匠においては、右溝はその存在のみならずその位置が一体となって意匠の構成要素となると解すべきである。

そうすると、本件意匠において、前面・側面・後面のいずれにかかわらず溝が存在するという不特定な特徴をもって本件意匠と各類似意匠に共通な構成要件と認めることはできない。

(四)  右(一)(3)の支柱キャップの存在について検討する。本件意匠、類似意匠(5)ないし(9)に支柱キャップが存在することは当事者間に争いがなく、類似意匠(1)ないし(4)に存することは成立に争いのない甲一、六、八、九、一七及び一八号証により認めることができる(以下、「共通構成要件b」という。)。

(五)  右(一)(4)は、右(一)(1)のカーソル部分の構造を言い換えたに過ぎず、特段(一)(1)とは別の本件意匠の構成要件となるものとは認められない。

2  そこで次に共通構成要件a及びbと公知意匠との関係について検討する。

(一)  成立に争いのない乙一号証及び一二号証によると、昭和五〇年一月一日段階で既に別紙物件目録(四)記載の身長計が公知となっており、また、昭和五八年一〇月一日の段階で、別紙物件目録(五)記載の身長計が公知となっていたことを認めることができ、本件意匠の出願日が昭和五九年八月八日であることは当事者間に争いがない。

(二)  別紙物件目録(四)及び(五)記載の各身長計と共通構成要件a、bとを比較すると、別紙物件目録(四)記載の身長計は、共通構成要件aの特徴を備えており、同目録(五)記載の身長計は共通構成要件a、bの構成要件をいずれも備えていると認めることができる(そもそも、共通構成要件aは、どの身長計においても通有する基本的構成である。)。

(三)  そうすると、共通構成要件a、b又はその組み合わせはいずれも本件意匠出願時において公知であったものと認められ、これを本件意匠の要部と認めることはできないといわざるをえない。

3  右のとおり、本件において、本件意匠及び各類似意匠すべてに共通する特徴を抽出することにより本件意匠の要部を確定することは不可能であり、本件意匠の要部を確定するためには、一般需要者の立場からみて、本件意匠の特に顕著な美観上の特徴を中心としつつ、その中で多くの類似意匠と共通する部分を参考に分析をして本件意匠の要部を確定するほかはないというべきである。そして、本件意匠との共通的特徴が公知意匠との関係で創作の程度が相対的に低い類似意匠については、類似意匠としての有効性は認めつつも、類似性の範囲をできるだけ狭く解し、右類似意匠と同一のものか少なくともこれを酷似するものについてのみ本件意匠との類似性を認めるという程度に留めるべきである。

ところで、申請部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙四ないし六号証の各一によると、イ号物件は、昭和六二年九月に所沢市市民医療センター、東京硝子健康保健組合、東京専売病院に納入され、同所において格別秘密の取扱をすることなく一般の診察に使用されていることを認めることができ、本件意匠の各類似意匠は、イ号意匠が公知となった以前に出願されたもの(類似意匠(1)ないし(4)、第一グループ)とそれ以降に出願されたもの(類似意匠(5)ないし(9)、第二グループ)とに分けられることになる。被告は、本件意匠の類似意匠は右の第一グループの類似意匠と第二グループの類似意匠とに分けられ、意匠的特徴が異なる旨主張するので、以下、本件意匠の類似意匠を右の第一グループと第二グループとに分けた上、本件意匠の対比を行うこととする(但し、本意匠出願後、類似意匠出願前に公知になった第三者の意匠があったとしても、第三者の意匠が本意匠に類似するものである限り、その第三者の意匠の行使は本意匠の禁止効に触れることとなるので、単に第三者の意匠が公知となった時期以後に類似意匠が出願されたことのみをもって、その類似意匠が公知となるものではないことはいうまでもない。)。

(一)  本件意匠において、一般需要者の最も目を引く点は、支柱が、その中程の高さの部分において、手前あるいは側方に二折に倒折できる動的意匠である点である。そして、これは第一グループである類似意匠(1)(3)(4)と共通(類似意匠(2)は、支柱上半部が抜き取り倒置できる形態となっている。)した特徴となっているが、第二グループの類似意匠には全くこの特徴は存在しない。

(二)  次に、本件意匠において目を引く点は、支柱側面の支柱高の中程の箇所に左右対称にコの字型に成型された棒状の取っ手一対が付設されていることであるが、こうした特徴は第一グループの類似意匠(2)ないし(4)に存在するが、類似意匠(1)にはこれが存在せず(類似意匠(1)においては、小型の箱体が設けられている。)、第二グループの類似意匠のうち、類似意匠(5)(6)には存在しているが、類似意匠(7)ないし(9)には存在していない。

(三)  また、本件意匠においては、基台の両側面後方部に車輪が各一個付設されており、同様の特徴は第一グループの類似意匠のうち、類似意匠(2)ないし(4)には存在しているが、類似意匠(1)には存在せず、第二グループの類似意匠においては、類似意匠(5)(6)(9)には存在するが、類似意匠(7)(8)にはこれが付設されていない。

(四)  本件意匠においては、基台上面後方部に、小円形の水平計表示窓が一つ設けられており、こうした特徴は第一グループに属する類似意匠にはすべて存在するが、第二グループの類似意匠には存在していない。

(五)  本件意匠においては、基台の上部に後方がL字型に起曲された足踏板が載設されており、これは第一グループに属する類似意匠にはすべて存在するが、第二グループの類似意匠には存在していない。

(六)  また、本件意匠においては、カーソル後方部と支柱上端部が一本のケーブルで連結されており、これは、第一グループすべてに共通しているが、第二グループにおいてはこれは存在していない。

4  以上の検討に基づき、本件意匠にあって、一般需要者の立場からみて美観上最も特徴的部分であり、かつ多くの点で類似意匠と共通する特徴である(一)ないし(六)の点を参考にし、本件意匠の要部を考えると、本件意匠の要部は、支柱が中位の高さにおいて二つ折りでき、支柱中央部に設けられた取っ手と基台に設けられた車輪により可搬容易に創作された体重同時測定式の身長計にあるというべきである(本意匠の意匠公報には、わざわざ「折りたたんでの搬送時にて示す参考斜視図」まで添付ざれており、本件意匠の眼目はこの点にあると考えざるをえない。なお、右3(四)の水平計の有無は、その余の特徴に比べると微細部分なので要部とは認めない。)。

なお、本件意匠の要部を右のように考えると、第二グループに属する類似意匠、特に類似意匠(7)は右の特徴のいずれも備えておらず、本件意匠と類似意匠(7)との類似点は、わずかに前記共通構成要件a、bに留まるが、この点が既に公知意匠であり特に創作性が認められるものでないことは前記2(二)において検討したとおりである。ただし、侵害裁判所としては、右類似意匠が有効に登録されている限り、その類似意匠は有効なものとして扱わざるを得ないのであるから、類似意匠(7)を無視することは適当ではないが、右のような類似意匠はできるだけ限定をして解釈すべきであり、仮に類似意匠(7)を参考として本件意匠との類似性を判断するとしても、これにより類似とされる範囲は、これと同一のものか少なくともこれと酷似するものについてのみ本件意匠との類似性を認めるという程度に留めるべきである。

四  そうすると、イ号物件は、体重同時測定式の身長計ではあるが、支柱が中位の高さにおいて二つ折りもできず、支柱中央部の棒状の取っ手もなく、基台に車輪も設けられていないのであるから、イ号物件と本件意匠とが類似しないことは明らかである。

また、イ号物件には、基台の上部に後方がL字型に起曲された足踏板が載設されており、カーソル後方部と支柱上端部が一本のケーブルで連結されている点で類似意匠(7)と異なるから、類似意匠(7)と同一あるいは酷似しているということはできない。

五  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 見満正治 裁判官 鬼澤友直 裁判官 飯畑勝之)

物件目録(一)

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物件目録(二)

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物件目録(三)の1

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物件目録(三)の2

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物件目録(三)の3

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物件目録(三)の4

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物件目録(三)の5

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物件目録(三)の6

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物件目録(三)の7

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物件目録(三)の8

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物件目録(三)の9

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物件目録(四)

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物件目録(五)

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